生命を作る卵殻膜。その不思議にひきつけられた
卵殻膜に着目したきっかけとは?
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長谷部ファウンダー |
最初に興味を持ったのは、小学校1年生のときでした。
卵から雛がかえる様子を目の当たりにし、親から栄養を与えられないのになぜ?と不思議でしょうがありませんでした。卵の殻の中に何か秘密があるのだろうと思っていました。
ちょうどその頃は第二次世界大戦の真っただ中で、私は地元・名古屋の空襲を逃れて、疎開先の新潟にいました。ブヨがたくさんいて、皮膚の弱い私はいつも刺されてただれていました。すると、疎開先でお世話になったおばあさんが「傷に効くよ」といって卵殻膜を貼ってくれたんです。どんな薬を塗っても痛みが引かなかったのに、なんと3日で皮膚がキレイに。「卵殻膜にはすごい力がある」と、子どもながらに確信した出来事でした。
それから約20年後、卵殻膜を研究しようと動き出したのは、あるテレビ番組がきっかけでした。それは、当時人気を博したプロレスラー・力道山のインタビュー。他の外国人レスラーのように試合中に血だらけにならない理由を問われた彼が、こう答えたんです。
「皮膚が切れたらそこに卵の薄皮・卵殻膜を貼っています。するとその部分がやわらかくなり、キレイに治ったあとは切れにくくなるんです」
その言葉は、小学校1年生のときの体験とすぐに結びつきました。貼るだけで強い皮膚へと導く卵殻膜の力を証明したいと突き動かされました。
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「皮膚が切れたらそこに卵の薄皮・卵殻膜を貼っています。するとその部分がやわらかくなり、キレイに治ったあとは切れにくくなるんです」
その言葉は、小学校1年生のときの体験とすぐに結びつきました。貼るだけで強い皮膚へと導く卵殻膜の力を証明したいと突き動かされました。
卵殻膜の消化吸収を実現し、世界初のサプリメントを生み出した
卵殻膜を使ったサプリメントや基礎化粧品などの商品開発へ、どうつなげていきましたか?
長谷部ファウンダー |
卵殻膜が命をつくる上で重要な役割を担っている――。そう仮説が立っても、立証できなければ何もないのと同様です。卵殻膜の力については、これまで世界中の科学者が注目してきましたが、論文発表ができるような研究プロセスを経ることができませんでした。卵殻膜は線維構造があまりにも強く、水にも油にも溶けず、熱にも強く、食べても消化吸収されません。そのため動物実験ができず、再現性のある証明につながらないのです。
もし卵殻膜を食べて消化吸収できたら、体はもっと元気になるはずだと考えていた私は、卵殻膜を細かく粉末にして消化吸収につなげる研究に没頭しました。その結果、卵殻膜には豊富なたんぱく質が含まれ、栄養バランスが非常にいいことがわかりました。そして、卵殻膜成分を配合したサプリメントが誕生したのです。
当初は東海大学 岩垣名誉教授と研究を進め、完成したサプリメントは東海大学の駅伝選手に飲んでもらうなど、非常に協力的に取り組んでいただきました。今思えば、初めて目にした卵殻膜のサプリメントを、選手たちもよく取り入れてくれました。また、選手たちのケガが減ったというデータもとれました。もしかしたら、卵殻膜が強さの一因になれたのかもしれません。 |
卵殻膜がⅢ型コラーゲンを早く誘導し、若さを保つ
東京大学との産学連携はどのようにスタートしたのでしょう?
加藤 |
長谷部ファウンダーからオファーを受けて、2007年より連携が始まりました。
当初は、東京大学の教授陣に向けて「卵殻膜が持つ力を研究したい」という打診があり、私と跡見教授が手を挙げたのです。
卵殻膜には、肌を健やかに保つⅠ型コラーゲンと、肌を修復し柔らかさをもたらすⅢ型コラーゲンにつながる力があるのではないか。そんな長谷部ファウンダーの仮説を聞き、すぐに興味を抱きました。Ⅰ型・Ⅲ型コラーゲンの遺伝子の調節については、すでにいくつか論文を出していましたが、「コラーゲンと卵殻膜」というのは新しい視点でした。 |
卵殻膜が持つどんな力に着目し、どのような研究をされたのでしょう?
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跡見 |
私たちの身体は細胞と細胞が分泌したコラーゲンなどの細胞外にある物質(
細胞外基質)からなります。私たちが生命を保てているのは、身体をつくる細胞内外のタンパク質等の物質がターンオーバーを繰り返しているからです。表皮や赤血球・免疫細胞のように、細胞ごと新しくなる組織もあるし、心臓のように細胞は誕生以降、変わらずそのままで中身だけ変わる組織の細胞もあります。老化とは、このタンパク質等のターンオーバーがゆるやかになっていくことで進行します。とくに細胞外基質では、それが遅くなります。細胞のターンオーバーは必ずしも速いほうが良いわけではありません。(細胞は分裂回数が決まっているので早く分裂すると老化が早くなってしまうことになります。この違いを間違って理解している人が多いのではないでしょうか)
I型コラーゲンではなく、Ⅲ型コラーゲンにはとくに細胞外基質のターンオーバーを促す働きがあるといわれており、からだのホメオスタシス維持に欠かせないものです。卵殻膜がⅢ型コラーゲンと同じような働きをしていると証明できれば、卵殻膜が細胞そのものを若返らせてくれるといえるのです。
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具体的には、III型コラーゲンは創傷治癒の最初に誘導されること、赤ちゃんの皮膚で多いことから、人の皮膚の線維芽細胞で、卵殻膜に結合した細胞がどのような遺伝子を誘導するかを実験しました。通常はシャーレに細胞がくっつくように加工されているので、そのままでは実験になりません。シャーレに特殊な高分子を塗って、それに小さくカットした加水分解卵殻膜を結合し、その上にヒトの線維芽細胞を接着させて細胞外基質の遺伝子発現をみました。多くの研究者は、「細胞は増えれば良いと考えており、シャーレ全面に亘って細胞がうめつくす状態」で遺伝子発現をみているのですが、皮膚の断面写真でみると、真皮では細胞と細胞は離れて存在しています。そのような細胞どうしの状態での遺伝子発現をみてみると、III型コラーゲンを含む3つの遺伝子発現の組み合わせがあることがわかりました。その3つの組み合わせの鍵が「若返り」でした。私たちの体の中での細胞たちの状態を再現するような実験がとても大事であることがわかりました。その後、加水分解卵殻膜を毛がないマウスの皮膚に塗布すると、なんと、同じ組み合わせの遺伝子が有意に増加したのです。天然材料がもつ大きな力を感じました。
卵殻膜が美と健康と長寿へと導く、世界的にも非常に価値のある発見ができたといえるでしょう。
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加藤 |
卵殻膜は豊富なたんぱく質を含有しています。卵殻膜のたんぱく質は、多くの植物性のたんぱく質と同様に吸収率が低めです。私が今注目しているのは、これらが腸内細菌にいい影響を与えている点で、これは論文でも発表しています。分解されないものが腸内細菌の栄養源となっている可能性があり、卵殻膜はプレバイオティクス(※)のような働きをしているのではないかと引き続き研究を進めています。卵殻膜には“腸”を元気にする力もあるのではないかと期待されているのです。
さらに今後の研究として、若い成長期の段階で卵殻膜を摂取することで、成人になったあともいい効果が継続できるかどうかにも着目しています。
(※)人間の持つ乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌を効果的に増殖させるのに役立つ食品成分のこと。具体的には、消化管上部で分解・吸収されず、大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進すること、大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持すること、そして、人の健康の増進維持に役立つこと。これらの条件を満たす食品成分を指す。
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